公益財団法人 住吉偕成会 住吉病院

甲府市の『公益財団法人 住吉偕成会 住吉病院 』の”エンパワメント”ブログ

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2018-01

成功者であり統合失調症者であり

投稿時間 : 08時05分23秒

カテゴリー : メンタルヘルス

ジャンル : 指定なし

南カリフォルニア大学法学部で教授職についているエリン・サックス氏は統合失調症を持っていながら、同大学ロースクールで、法学・心理学・精神医学・行動科学を教えています。彼女は重い精神疾患に苦しむ人々のために活動し、同大学で研究機関「Saks Institute for Mental Health Law, Policy and Ethics」を立ち上げています。

あるきっかけで、彼女が2013年にニューヨークタイムズに寄稿した記事を知りました。
Successful and Schizophrenic  By ELYN R. SAKS
Published: January 25, 2013

http://www.nytimes.com/2013/01/27/opinion/sunday/schizophrenic-not-stupid.html?src=me&ref=general


彼女は16歳の頃統合失調症と診断されました。診断とともに予後の見通しは不良で、自立することや、就職をして結婚をすることもはきないだろう、将来は施設で生活し、テレビを見ながら暮らすことになるといわれました。症状が治まれば、こづかい稼ぎのような仕事ならできるかもしれない、とも。彼女は精神科病院に数回入院しましたが28歳の時を最後にして入院を拒む人生を歩みました。かつて主治医は彼女に両替商のレジで働きなさいとうながしました。それがうまくできれば、あなたの能力を見直して、もっと難しい仕事につけるようにするし、フルタイムの仕事だって可能かもしれない、と。彼女は決意して学問を究める道をすすみました。日常生活では今も妄想に取り憑かれたり幻覚を見たりする症状もって「これはただの病気、気にしすぎることはない」と自分に言い聞かせられる時も多いそうですが、数日間症状に苦しむこともあるそうです。それでも長い年月を経て状況は良くなってきたといいます。

これまでの精神科の常識によれば、彼女のような「成功した」患者は例外中の例外だということでしょう。しかし彼女はUSCとUCLAの共同研究者たちと、彼女が例外でないことを示しました。彼女以外にも、統合失調症をもち妄想や幻覚といった症状に苦しみながら、学問的な成功をつかんだり専門職として活躍している人たちがいることを知り、そういった「高機能」な統合失調症を持つ方々とミーティングを重ねました。その人たちは大学院生や経営者や技術者や専門職(医師や弁護士やNPOの最高御責任者)が含まれており、また、入院経験のある人は4分の3でした。

その結果、「高機能」の人々はみんな、投薬や治療以外に症状を自己管理する方法を開発していたことがわかりました。ある教師の方は、幻覚に対して「それが現実である証拠は何だ? それとも、単に知覚の誤りにすぎないのか?」と問いかけるようになり、別の人は、「私を軽蔑するような声はたえず聞こえてくるけれど… 聞き流せばいいんです」と語りました。

その他にも「引き金」や「注意サイン」を見極めて対処する必要が多く語られました。そして参加者が症状管理の助けとなる行動のうち、最もたくさん言及されたものの一つが働くことでした。「仕事はその人自身の重要な一部」であり「ある組織にとって有用な人間になりその組織で尊重されていると感じるとき、そこに所属すること価値が生まれる」。サックス氏自身も、体調が崩れかける時には、医師や友人や家族にヘルプを出したりさまざまな自己対処を心がけていますが、仕事は最良の体調自己管理法で、仕事をしていれば精神が集中するし、わずらわしい症状もおとなしくしてくれるそうです。

だからこそ、医師が患者に充実したキャリアを期待したり追求したりするなと言うのはとてもやりきれないと彼女は言います。精神科医のアプローチは、特徴的な症状を見るだけで人間を見ないことが、あまりに多すぎる、と。多くの精神科医は、薬で症状を治療することが精神疾患を治療することだと考えているけれど、これでは、個人の能力は考慮に入らないし、患者が人生で何を達成したいと望んでいるかをメンタル・ヘルスの専門家がないがしろにしてしまっている、と彼女は指摘します。もちろんこのことは統合失調症に限ったことではなく、さまざまな精神疾患において、その症状を治療するだけでなく、それぞれの人のストレングスに対してアプローチし、「病気の中にある健康な部分」を見つけることが治療のゴールとなるべきです。

「医師たちは患者に、もっと人間関係を発展させたり、意味のある仕事につくように励ますべきなのです。医師たちは患者を勇気づけ、自分の症状を管理するテクニックを見つけ、自分で決めた生活の質を目指すように後押しすべきなのだ。そして、医師たちは患者に、そうしたことを実現させる資源―精神療法、適切な薬、支援―を提供すべきです」、と彼女は述べています。

「すべての人は、世界にもたらすことのできるユニークな才能やユニークな自己をもっている」。統合失調症や他の精神疾患の診断を持っていても、誰しもが望んでいることをその人々も望んでいるという現実があります。その誰もが望んでいることとは、ジークムント・フロイドの言葉によれば、仕事をすることと人を愛することなのだそうです。



ビッグイシューでの彼女のインタビューによれば、
「私のケースは特別で、こんな高機能な患者はいないとよく言われますが、 そうではありません。この疾患に対する偏見が強いため、病気の人たちが打ち明けられないのです。医師が患者に自分にあまり期待しないようにと告げるのも間違っていると思います。」

彼女は医師による偏見についても指摘しています。彼女がロースクールで学んでいた折「身体拘束」について論文を書いた時、精神科医でもある法律の教授と話していて、身体拘束は痛くてとても屈辱的だと訴えると、「君は分かってないね。“彼ら”は精神疾患なんだよ」と教授は言ったそうです。精神疾患を持つ人がそうでない人と同じ「高機能」な人間とは考えていないのです。だから彼女は言ったのです。「いいえ。“私たち”はあなた方と何ら変わりません。」

私は彼女に大きく勇気づけられて、つい、amazonで彼女の書いた本を購入してしまいました。少しずつ読んでいきたいと思っています。


彼女のTEDでのスピーチも素晴らしいです。こちらから見ることができます→https://www.ted.com/talks/elyn_saks_seeing_mental_illness?language=ja


最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。