社会福祉法人 幡多福祉会 幡多希望の家 (旧重症心身障害児(者)施設) 

高知県宿毛市にある『社会福祉法人 幡多福祉会 幡多希望の家 (旧重症心身障害児(者)施設) 』のブログ

骨の事

2019-08-28

投稿時間 : 11時21分05秒

カテゴリー : 施設長の思うまま記

ジャンル : 医療コラム

2019/08/28

施設長 山本洋

 先月当施設の男性入所者(40代前半)が左大腿骨遠位端骨折を受傷しているのが判明して、けんみん病院で手術を受けました。無事終了して現在は当施設に再入所しています。私が当施設に赴任してから現在4年目、これで4件目の骨折事例の発症です。その内訳をみると、一人が右鎖骨の骨折、あとの三人はいずれも大腿骨の骨折。一人は患者が立ち上がろうとして、職員の目の前で転倒して受傷した大腿骨頚部骨折、他の三人は今回の事例も含めて受傷機転がはっきりしません。統計的にみますと、当施設のような重症心身障害者施設での骨折の発症状況は、昨年11月の日本重症心身障害福祉協会西日本施設協議会の発表によれば、全国の発生頻度は3.25% 西日本の施設では2.40%になっています。当施設は51床の施設ですから概ね発生頻度は年に約2%になります。他の論文のデータですが、骨折の受傷機転の不明な事例は全体で73.6%と高値になっています(骨粗鬆症と骨折の予防、横井広道 小児内科Vol47 NO12 pp2101~2104) 。この患者さんは骨密度を測定してみると、同年齢の男性に比して21%の値となりました。著明な骨粗鬆症が認められました。

 通常の場合骨の発達は20代まで続き成人期はそれが維持されて、以後は色々な条件で骨密度の減少が進んでいきます。骨の発達には適正な運動を続けることが重要であり、今回の患者は幼小児期から脳性麻痺のため歩行ができていないため、骨が十分に発達することなく年齢を重ねていると考えられます。レントゲンで診ると骨皮質が薄く、明らかに脆い状態の骨であることが推測できます。

 以前は、骨は骨格によって身体の様々な器官の重量を支えるもの、頭蓋骨や、胸郭、骨盤などで、脆弱な内臓を収納、保護するもの程度の認識しかなかったと思われますが、最近は骨の中に潜む、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞などの細胞が様々な物質を分泌しながら、造骨や破骨の調節、また記憶力、免疫力、生殖力などを若く保つ働きまでもあり生命維持にも重要な働きがあることが明らかになりつつあります。

 骨は一度作られたら変化しないものではなく常に破壊され、そして新しく作られています。大人では3~5年で全身の骨が入れ替わるといわれています。この作り変えを行っているのが、骨の中にいる細胞で骨を壊す「破骨細胞」と骨を作る「骨芽細胞」です。この二種類の細胞の作り変えのバランスが崩れておきるのが「骨粗鬆症」です。そしてこの二つの細胞の働きのバランスをとっているのが骨細胞であり、骨細胞は「スクレロスチン」という「メッセージ物質」を分泌します。この物質は「骨を作るのをやめよう」というメッセージを伝える働きをします、そして骨芽細胞の数を減らすように作用します。ですから、スクレロスチンが出すぎてしまうと、当然骨量が減ってしまい、骨粗鬆症になって行きます。

 なぜそんなことが起こるのかが次第にわかってきたようです。実は骨細胞には「骨にかかる衝撃を感知する」と言う働きがあって、衝撃があるかないかによって、新しい骨を作るペースを決めているらしいのです。つまり骨に「衝撃」がかからない生活を続けていると、骨細胞が「スクレロスチン」をたくさん分泌して、骨芽細胞の数を減らし、骨の建設を休憩させてしまうようです。我々のように一日の大半を座って生活している現代人は、スクレロスチンが大量に分泌され、知らないうちに骨粗鬆症が進行している可能性があると思われるのです。

 また骨芽細胞からは「オステオカルシン」というメッセージ物質をだします。これが先ほど述べた「記憶力」、「筋力」、「生殖力」まで若く保つ力があることがわかってきました。オステオカルシンがないマウスでは、位置を記憶する能力が衰えたり、精子の数が半分近くまで減少してしまうことが実験で示されています。また骨芽細胞からは別の「オステオポンチン」というメッセージ物質が分泌されます。この物質が減少すると、骨髄内で生まれる免疫細胞の凌が低下することが分かってきました。免疫細胞の量が減れば、免疫力が下がり、肺炎や癌といった疾病を引き起こすリスクが高くなります。

 骨が単なる人体の骨格を支えるものではないことが明らかになってきていますが、そうなると、当施設の入所の方で、生まれてからまったく歩行ができず、骨に重力負荷がかからない生活を送っている人たちは今後どうすれば良いのかと考え込んでしまいます。通常の生活を送った後、高齢化等の色々な原因で骨粗鬆症になった方にはたくさんの種類の薬剤が使用できる可能性があります。しかし当施設の患者さん達は寝たきりの生活が長く、色々な臓器に問題がある方も多いです。どうしても使用できる薬剤が限られてきます。さらに自分で症状を訴えることができない方がほとんどと言っていいでしょう。薬物治療によって出現する可能性のある副作用による症状を訴えてくれる人は少ないでしょう。

 それでも、我々医療者には、適切なそして慎重な介護、看護の技術のもとに適切な治療を進めていくことが求められていると思います。